モッツァー
前回2回にわたり、コーシャに関して触れて来ました。今回はユダヤ料理の歴史にちょっと触れてみたい。
古代イスラエルの一般人の日常食は、主にパン、穀物、豆類だった。春夏は山羊と羊の乳をのみ、バターやチーズを食べた。飲料の定番はワイン。肉は通常ヤギやヒツジの肉。時に応じて、ジビエ、鳥、卵、魚も食べた。ローマ帝国時代にかけて、主要な食材入手可能なものに限定した料理が食べ続けられた様だ。パン、ワイン、オリーブオイルの重要性は祈りの場面でワインを飲み、安息日や祝日、結婚式などの宗教儀式でパンを食し、オリーブオイルを灯した。
近現代、東欧をルーツとするユダヤ人が定住した結果、異文化の影響がみられる。今日知られるアシュケナジム料理は広くアメリカのユダヤ料理とイスラエルのアシュケナジム料理に基づいている。中世の西ヨーロッパを追放されたユダヤ人が、貧困の中、制限された食材でバラエティのない料理で生きる事を余儀なくされ、結果として、アシュケナジム料理は味気のない・美味しくない料理と評される理由となった。
ここで、ユダヤ人の重要な行事、過越(すぎこし)の祭りに触れてみたい。これはユダヤ人が古代エジプトからの脱出(旧約聖書・出エジプト)を記念したもの。映画「十戒」の中に描写されている。この時パンを膨らませる時間さえ許されない慌ただしい脱出だった為、パン種のないモッツァー(クラッカーの様なものでパン種がない)を食べたことが、現代でも、過越し祭にモッツァーを食べる習慣となっている。イースト菌やパン種を使ったパンはこの期間中は禁止されている。ユダヤ人が旧約聖書の出来事、教えを忠実に守り、生活している事には驚きである。筆者は英国留学中、父の友人のユダヤ人宅にほぼ毎週末食事に招待され、様々なユダヤ人の生活を身近に感じた。とにかく、独特の彼らの生き方に驚く毎日だった事を思い出す。