創業者のアーサー・ギネスによって、1759年、アイルランド・ダブリンのジェームス・ゲート醸造所に生まれた「ギネスビール(Guinness)」。焙煎された麦芽とホップの風味が絶妙なバランスの“黒スタウト”。当時は麦芽に税金がかかったので、その対策として、大麦を発芽させずにそのまま焙煎するという手法が功を奏し、ロンドンを中心に爆発的な人気を博した。 独特の濃い琥珀色、苦味、強いホップの香り、そしてクリーミーな泡立ち。最近は日本でも生ギネスビールを飲める店が増えてきているので、ファンになった人も多いのでは。筆者自身はアイリッシュビールの「キルケニービール」の大ファンだが。ギネスビールはエールタイプで「ドライ・スタウト」に属する。醸造方法は上面発酵で、その点では普通のエールビールと変わりない。然しエールビールは麦芽を焙煎するのに対し、ギネスは麦芽にする前の大麦を焙煎している点が大きく違うようだ。ケグ処理され、窒素と二酸化炭素の混合ガスを加えることで、より細かい泡が出来る。 長期に渡ったイギリスの圧制に苦しんだアイルランドに、追い打ちをかける様に、1845~49年にかけて「ポテト飢饉」が起きた。飢えに苦しむ国民の半分はアメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなど、大英帝国の国々への移住を余儀なくされた。その時彼らはギネスを携えていたのだ。1913年に、たくさんのアイルランド人を乗せて沈んだ“タイタニック号”には、大量のギネスビールが積まれていたそうだ。イギリスからの決別を期して作られたギネスが、ロンドンで普及し、しかも大英帝国の恩恵にあずかって世界中に普及したというのは何とも皮肉なことだ。 毎年、世界中が盛り上がる、聖パトリックデー。雰囲気の良いアイリュシュパブで飲むギネスは各段に美味しく感じられる。またギネスが恋しくなる寒い季節がやってくる。